東北地方太平洋沖地震に伴い発生した原子力発電所被害による食品への影響について

 東北地方太平洋沖地震に伴い発生した原子力発電所被害による食品への影響についてQ&A

Q1.Bq、Sv、照射の時の単位Gyはどう比較したらよいのでしょうか。

Gy(グレイ)は、物体が吸収した放射線のエネルギーの量(吸収線量)で、Sv(シーベルト)は、人体に与える影響の大きさを示す尺度です。今回の原発の事故に関しては、Gy(グレイ)=Sv(シーベルト)と考えていただいて結構です。

Bq(ベクレル)は、放射性物質の量(=1秒間あたりに放射線を出す回数)を表します。

なので、Bq(ベクレル)と、Gy(グレイ)=Sv(シーベルト)の関係は、その放射性物質が何であるか(どんな放射線を出すか)、どのくらいの距離を離して放射線を浴びるか、によって変わります。

先日、池上彰氏が出演したテレビ朝日の特番で、「蛍」を放射性物質に、「蛍の光」を放射線に、例えていました。

放射線照射によるニンニクの芽止め効果の実験で、ニンニクにガンマ線を当てるときに用いたコバルト60線源は、堅牢なステンレスの容器の中に二重に封印して密封されていますので、例えて言えば、丈夫なガラスケースに入った蛍です。

その光で、透明なケース越しに外の物体(ニンニク)を照らしたようなものです。

原子力発電所の原子炉のウラン燃料も、本来はそのように「5重の壁」で厳重に閉じ込められていたはずが… 蛍に例えると、ケースが割れてふらふらさまよい出てきたようなものです。

念の為に申し添えますと、ニンニクにガンマ線を照射しても新たな「蛍」は生じません。カリウム40などの自然の放射性物質はもともと含まれていますが、ガンマ線照射の前と後でその量に変化はありません。

風にのって蛍が飛んできて… (光の)検出器の近くを通りかかると、その一瞬、蛍の光(放射線)が検出されます。

風向きの加減で、たまたま蛍が沢山飛んでくると、それだけ強い光(放射線)が検出されます。

そのとき検出される光(放射線)の強さは、上記の説明で言えば、グレイ(=シーベルト)に相当します。(厳密には違うのですが、いまは触れません)

その(放射線の)強さは、通り過ぎる蛍の数(ベクレル、厳密に言えば蛍が光った回数)に比例し、蛍から検出器までの距離の二乗に逆比例します。(100倍の数の蛍がいても、10倍離れれば、光の強さは同じ)

 

Q2.もし、食べ物と一緒に食べてしまった場合の、体内からの放射線被ばくの量は?

専門的になりますので詳細は省略しますが、それぞれの放射性物質によって、換算式(経口摂取時の実効線量係数)が細かく決められています。
たとえば、ヨウ素131では、1ベクレル→0.022マイクロシーベルト
セシウム137では、1ベクレル→0.013マイクロシーベルト など。

<放射性核種の摂取量から内部被ばく線量に換算する実効線量係数の例>      

<福島原発事故に伴う放射線の人体影響に関するQ&A (日本放射線影響学会有志)>

    Q3 体内に取り込まれた放射性物質によって人体に影響が出る線量はどのくらいですか?
    A:
      100,000マイクロシーベルト程度以下の被ばくなら問題はありません。放射性物質は、放射線を
      出しながら放射性のない物質に変わってゆきます。そのとき発生する放射線が体に影響します。
      放射性物質には、あっという間に放射線を出さなくなる物質と長い間放射線を出し続ける物質が
      あります。最初にあった放射性物質が半分になる時間を物理的半減期といって放射性物質の寿命
      を表していますが、実際には、体内に取り込まれた放射性物質は、体の備わる排泄装置によって
      体外へ排出されます。従って、体内に取り込まれた放射性物質の人体影響の程度は、どれくらい
      の放射性物質が体内に残存するかで決まります。報道で放射性ヨウ素や放射性セシウムが問題と
      説明される理由は、それらの物質が比較的体内に残りやすい性質を持っているからです。
      しかし、今回のような事故で観察される放射線量から計算すると、運悪く放射性物質が体内に取
      り込まれたとしても僅かですから、被ばく量は少なく、影響が出るレベルの汚染は起こりにくい
      ので心配には及びません。
                       (掲載日:平成23年3月15日、平成23年3月19日改訂)

Q3.ホウレンソウは葉の表面に放射性物質が付着して いるということですね?では、放射性物質を吸収(吸着)して成長する食品や植物はあるのでしょうか?また、あるとすればどのような食品なのでしょうか?

植物や、それを食べた動物は、土壌や食べ物に含まれる栄養分を吸収して成長しますが、そのときその栄養分が放射性かどうかは区別しません。
ホウレンソウなどの葉の表面には、空気中のホコリなどの微粒子が付着しますが、その量は、そこに放射性物質が含まれているかどうかとは関係ありません。

● 葉の表面の放射性物質の量について

ほうれん草のように葉が上を向いて広がっている非結球性の葉もの野菜では、葉に舞い降りる放射性物質を含んだホコリの量が多いため、他の野菜に比べて高い濃度の放射性物質が検出されがちです。でも、洗えばある程度は除去できると考えられます。

一方、キャベツのような結球性の葉もの野菜では、外側の葉を剥けば、付着した放射性物質をかなり除去できます。

大根のような根菜類は、土の中に埋まっているので、放射性物質を含むホコリは付きません。ただ、検査の際に葉の部分も一緒に分析した場合は、葉に付いた放射性物質のために数値が高く出てしまいます。

詳しくは、こちらをどうぞ <農林水産省のQ&A>
  
● 根から吸い上げる放射性物質の量について

植物は土壌中のミネラルを水と一緒に盛んに吸い上げますから、土壌に降り積もった放射性ヨウ素や放射性セシウムの一部は水と一緒に植物体内に移行すると考えられます。

その移行の度合いは、放射性物質の化学形(例えば同じヨウ素でも、水溶性か否か、など)によって大きく違います。

ヨウ素の場合、水稲精白米中の全ヨウ素濃度は土壌中の全ヨウ素濃度の約0.3%、水溶性のヨウ素に限れば約20%という文献データがあります。 

セシウムの場合、作物の種類によって異なりますが、農作物可食部中のセシウム濃度は土壌中濃度の約0.2〜2%というデータがあります。 <土壌から農作物への放射性物質の移行係数>

これらの数値は、そのヨウ素やセシウムが放射性かどうかには関係ありません。

しかし、放射性ヨウ素は半減期8日で自然に無くなっていきますから、土壌中そして農作物中の放射性ヨウ素濃度も自動的に8日間ごとに半減します。したがって、空気中からホコリと一緒に舞い降りて葉に付着した量にだけ注意すればよいでしょう。

一方、半減期が長い放射性セシウムの場合は、土壌から農作物へのゆっくりとした移行にも気をつける必要があります。


ついでに言えば、
植物は土壌中のミネラルを水と一緒に盛んに吸い上げますから、土壌中のウラン系列の天然放射性核種も吸い上げます。したがって、植物の葉などには、一般的に低濃度の天然ウラン系列の放射性同位元素が集積しています。
 ウラン238→→→ポロ二ウム210とか。

そのような植物の葉を燃やしてその煙を吸引するということは、葉に蓄積した天然放射性核種の微粒子を好んで自分の肺に蓄積していることになります。
タバコを吸う習慣によって肺がんが明らかに増加しますが、その原因のすくなくとも一部は、タバコの葉に蓄積した天然の放射性物質が煙の微粒子に移行し、その天然ウラン系列の放射性物質が肺に蓄積したことによるアルファ線の内部被ばくといえるでしょう。 <日経サイエンス2011年4月 タバコに放射性物質>

Q4.安定(非放射性)ヨウ素剤はどのような状況下の人が、どのようなタイミングでどの程度の量を摂取すべきなのですか?

医師や専門家の指示があるまで摂取は不要です。

体の中に放射性ヨウ素を取り込んでしまった場合、ヨウ素は甲状腺に集積するので、特に甲状腺が集中的に内部被ばくを受けます。これを防ぐ為に、放射性ヨウ素が体に入る前や、入った直後に、安定つまり非放射性のヨウ素剤を服用すると、放射性ヨウ素の取り込みを阻害あるいは希釈して甲状腺への影響を低減させる効果が期待できます。

しかし、ヨウ素剤の服用によってはアレルギーなどの副作用をおこす場合もあります。また、安定ヨウ素剤は、放射性ヨウ素が体の中に入った場合のみに有効で、外部被ばくや他の放射性核種には効果がありません。

<放射線被ばくなどに関するQ&A (社)日本医学放射線学会>

     Q10 放射線防護剤(安定ヨウ素剤)をほしいのですが
     A10 ヨウ素剤を飲むと甲状腺に多く集まる放射性物質を防御できることは、マスコミ報道などに
       より皆さんも聞いていらっしゃると思います。これは、本当に手の付けられないような大惨事
       に人が巻き込まれたときに、医師が若い方への投与を判断します。甲状腺の癌を心配する声が
       一部にはありますが、大人にとって甲状腺は放射線の影響をあまり受けない臓器です。子供は
       大人よりも影響受け易いので、まずは子供から考えるように投与方法も決まっています。しか
       し、島国の日本ではロシアなど内陸地の国民に比べてもともと甲状腺内のヨウ素は充分にあり
       ます。また実際に投与を受ける必要があるほど放射線を浴びる可能性は現状では考えられませ
       ん。なお、市販のうがい薬などを飲むことは危険ですのでやめてください。
                                 (日本医学放射線学会Q&A.doc)

Q5.放射線量の解説で、500mSVのとき一時的に白血球が減少するといった図を目にするのですが、あれは一度に浴びると(急性)という意味ですか?年間あるいは生涯でどの程度浴びても良いものなのでしょうか?

一度に浴びると、という意味です。徐々に、であれば、当然、悪影響は小さくなります。

一生涯、連続して浴びてもいい限度、を実験的に求めるのはなかなか難しいです。
ひとつの方法は、地質学的な理由で自然放射線が高い地区の住民で、そうでない地域と比べて健康に悪影響があるかどうかを調べる方法です。これまでに知られている全ての「自然放射線が高い地区」で、悪影響は出ていません。

実験的には、マウスやラットを用いた長期低線量被曝飼育試験がありますが、そもそもネズミと人間は寿命も違いますから、どうやって比較したらいいのか?ネズミの結果をどう人間に当てはめるのが妥当か? まだまだ議論があるところです。

少なくとも、原爆被爆者のデータから、原爆で一気に浴びても結果的に問題なかった線量なら、同じ線量をじわじわ時間をかけて浴びた場合は、もっと影響は小さく、安全だろう、と考えられます。

具体的には、1Sv程度、敏感な人でも500mSv程度なら、一気に浴びても、吐き気や脱毛、白血球の減少などの影響(急性障害)は現れません。
100〜200mSv程度かそれ以下では、急性障害がないのはもちろん、発がんの増加もみられません。
正確には、発がんの増加が「ゼロ」と言い切ることはできませんが、誤差に埋もれて統計的にも検出できないということです。誰でも一生の間に3人に1人はがんになるのですから、放射線を余分に受けたことでがんになる確率がわずか増加したとしても、放射線と関係なくがんになる確率の方がずっと大きいために、その変動や個人差の中に隠れてしまうのです。その程度の線量を、さらに1年かけてゆっくり浴びた場合の影響は、さらに無視できると考えられます。

Q6.水道水などに検出された放射性ヨウ素の壊変(decay)について

今、騒がれている「放射性ヨウ素」、ヨウ素131(I-131)は半減期8日でベータ壊変して非放射性のキセノン131に変わります。

8日ごとに2分の1に減る訳ですから、測定した時点で仮に1kg当たり300ベクレルあったとしても、4半減期(32日)=約1ヶ月後には(1/2)×(1/2)×(1/2)×(1/2)=1/16で、1kgあたり約20ベクレルと自然放射能のレベル以下になります。

10半減期(80日)後には、測定時の1024分の1、3桁も下、つまり、事実上「消えて無くなる」訳です。

もし、牛乳やほうれん草の汚染が放射性ヨウ素だけだったら、捨てたりせずに、粉ミルクやポパイのほうれん草の缶詰にでも加工して、何ヶ月か保存しておけば、汚染は「消えて無くなる」のです。
もったいないことです…

金町浄水場の、「放射性ヨウ素で汚染」した水道水も、通常通り「東京水」として殺菌されペットボトルに詰められたものは、そのまま未開封で保存しておけば、時間の経過とともに「放射能」はきれいさっぱり消えてなくなるのですが…

お母さん方が心配される「乳児の飲用」について、専門家の意見を引用します。
<放射性ヨウ素が測定された水道水摂取に関する、日本小児科学会、日本周産期・新生児医学会、日本未熟児新生児学会の共同見解>

   1) 母乳栄養の児では、母親は制限なく食事を摂取し、母乳栄養を続けてください。
   2) 人工栄養の児では、ミネラルウォータを使用してミルクを調整することは可能ですが、煮沸し適温
    にしてから使用します。一部の硬水では、粉乳が十分に溶解しないことがあります。また、硬水には
    多くのミネラルが含まれており、乳児に過剰な負担を与える可能性があります。この場合には、水道
    水を用いる方が安全です。
   3) 離乳食を摂取している乳児では、水分摂取は離乳食からも可能なので、人工乳の量を減らすことは
    問題ありません。
   4) 人工乳のみを摂取している児で、代用水が確保できない場合は通常通り水道水を使用して下さい。

日本産婦人科学会の見解
<水道水について心配しておられる妊娠・授乳中女性へのご案内>

Q7.放射性ヨウ素が甲状腺に蓄積し、それによってがんを発症するとして問題にされています。この場合、放射性ヨウ素の半減期とヨウ素が甲状腺に蓄積されてがんを発症する期間との関連はどうなるのでしょうか?

チェルノブイリでは、約500万人の住民中、2006年までに約4000人の甲状腺がん患者が発見されました。そのうち15名が死亡、他の患者は治癒しました。

Isotope News誌 2009年8月号 p.25に、事故の20年め(2006年)の国際会議で発表された、1986~2002年の甲状腺がん発生率のグラフが載っています。
事故後3年間は変化は無く、4年後の1990年から増加し始めています。そして、10年後(1996年)までの患者数が約800人、20年後(2006年)までの累計患者数が約4000人とのことです。

これらの患者は、事故の直後(1ヶ月以内)に、放射性ヨウ素で汚染された飲食物(主として牛乳)を飲んだ子供で、甲状腺に集積したヨウ素による比較的大量の局所的な内部被曝の結果、甲状腺がんが増加したと考えられます。

前述のグラフにある患者の年齢構成に注意してみると、事故の当時14歳以上だった年齢層では発症は増えていません。オトナは食べても(被曝しても)何ともなかった、ということです。

上記の子供の甲状腺がんが増加した以外には、がんや白血病の増加は科学的には認められません。最大の健康影響は「不安ストレス、精神的な障害」だった、というのが現在の結論です。
今回の出荷停止・摂取制限が、不安を煽る面もありますが、市場に出回っているものは安全、と言い切ることで、消費者を安心させるという措置の必要性も理解できます。
こまめに測定して、データを隠さずに公表して、かつ、過剰安全にならない妥当なレベルで、割り切って線を引いて、出荷停止・摂取制限とその解除を繰り返すのが、落ち着きを取り戻す近道なのでしょう。
それにしても、消費者は不安ストレスだけですみますが、生産者にとっては生活が根底から揺らぐ大損害ですよね…

その他、疑問や心配についてはこちらをご覧下さい。
頻繁に追加、更新されているQ&A集です。
<福島原発事故に伴う放射線の人体影響に関するQ&A (日本放射線影響学会有志)>

出典:放医研資料