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vol15.低線量放射線の健康影響を消費者・生活者に正しく周知する方策は全くないのか

伊藤蓮太郎 :2011年7月

 未曽有の東日本大震災と福島第一原子力発電所事故を東京で被災した小生としては、東北地方で甚大な被害を受けた皆さまに、ただただ、お見舞い申し上げ、甚大な被災に負けずに頑張ってくださいと声援申し上げるばかりです。

この2~3か月は標題のことが気になってしかたがありませんでした。

 わが国の原子力発電所については少なくともすべての関係者対し「安全文化」*1を構築しようとするくらいに安全確保の意識を徹底し、また発電所・関連施設の構造設備や安全管理についてはすべて多重防護の理念に基づき設計建築され運営されているので、その安全性の確保は国際的にもトップクラスと思い込んでいました。

 この思い込みもあって、食品の安全衛生管理に関する講演等を行うときは、安全文化の理念や厚労省が推進している医療従事者向けヒヤリ・ハット事例収集・分析・提供事業を例示し、食品事業者や従事者の意識改革に活用していたくらいでした。

 しかしながら、INESレベル7*2という最悪の事故が発生してしまいましたので、1日も早くそれに係るすべてを終息させ、決して二度と発生させないための諸対策を大至急講じなければなりません。

 それと同時に、低線量放射線の健康影響について「どの情報を信頼して日常生活を過ごしたらいいのか?」という消費者・生活者の根強い不安を大至急解決しなければなりません。
 

 その方法は、科学的根拠に基づいた信頼できる情報を、地方自治法第245条の4*3の規定にしたがって、国から地方自治体を通じて消費者・生活者へ直接周知するとともに消費者・生活者からの疑問に直接応える仕組みを作ることです。

この場合、国は、例えば、(社)日本アイソトープ協会ICRP勧告翻訳検討委員会委員及び食品安全委員会委員・専門委員を構成員とする法律*4に基づく審議会を設置し、その審議会が消費者・生活者向けの分かりやすい「低線量放射線の健康影響」の健康影響評価書を作成します。主務官庁(例えば、内閣府)はその評価書の普及パンフレット等を作成し、地方自治法第245条の4に基づき地方自治体を通じて消費者・生活者一人ひとりが理解するように努めます。
 
多くの消費者・生活者が抱く低線量放射線の健康影響に関する不安は、いろいろな専門家がいろいろな根拠に基づき客観的に又は非客観的に解説するなどの現状があることに起因します。この現状は、一日も早く、何としても無くさなければなりません。
 
なお、審議会での検討に際しては、「年寄りの冷や水」と言われそうですが、失礼ながら念のため、LNTモデル*5上での100mSv以下の被ばく線量による放射線の確率的影響*6の存在は見込まれるもののその不確実さの問題を解決するため、De Minimis理論*7リスク評価方法*8(HQ(ハザード比、Hazard Quotient)、MOE(曝露マージン、Margin of Exposure))を採用した看做し・予測リスク評価モデルのご検討をお願いいたしたいです。参考にした主な図書は①放射線防護の基礎 第3版(著者:辻本 忠/草間朋子)②ほんとうの「食の安全」を考える ゼロリスクという幻想(著者:畝山智香子)です。

*1 「安全文化」:国際原子力機関(IAEA)の国際原子力安全諮問グループ(INSAG=International Nuclear Safety Advisory Group)は1992年の報告書の中で、安全文化とは『原子力施設の安全性の問題が、すべてに優先するものとして、その重要性にふさわしい注意が払われること』が実現されている組織・個人における姿勢・特性(ありよう)を集約したものと説明。つまり、「文化」といえるくらいに、社会全体が安全を最優先する風土や気風にまで高まったこと。
(http://www.fepc.or.jp/present/safety/ikusei/anzenbunka/index.html)

*2 INESレベル7:経産省資源エネルギー庁原子力安全・保安院は4月12日、国際原子力事象評価尺度(International Nuclear Event Scale, INES)レベル1から7の内のINESレベル7(深刻な事故)を宣言。
(http://www.meti.go.jp/press/2011/04/20110412001/20110412001.html)

*3 地方自治法第245条の4:第1項「各大臣又は都道府県知事その他の都道府県の執行機関は、その担任する事務に関し、普通地方公共団体に対し、普通地方公共団体の事務の運営その他の事項について適切と認める技術的な助言若しくは勧告をし、又は当該助言若しくは勧告をするため若しくは普通地方公共団体の事務の適正な処理に関する情報を提供するため必要な資料の提出を求めることができる。」、第2、3項は省略。

*4 法律:近い将来、このための新法、例えば、「低線量放射線の健康影響評価及び安全管理、並びに相互理解の推進に関する法律(仮称)」の制定を求む。

*5 LNTモデル(直線しきい値なしのモデル(Linear-non-threshold model)):低線量領域でも、ゼロより大きい放射線量は単純比例で過剰がん及び/又は遺伝性疾患のリスクを増加させる、という仮説に基づく線量反応モデル。(国際放射線防護委員会ICRPの2007年勧告中の用語解説 (社)日本アイソトープ協会 2009年9月)

*6 放射線の確率的影響:発生する影響の確率が、その重篤度ではなく、しきい値なしの線量の関数とみなされるような悪性疾患及び遺伝性影響。(国際放射線防護委員会ICRPの2007年勧告中の用語解説 (社)日本アイソトープ協会 2009年9月)

*7 De Minimis理論(デミニミス理論):法格言、De minimis non currat lexを短くしたものであり、法律は非常に些細な事柄に関心を示さない、という意味である(アメリカにおける食品安全規制緩和 - いわゆるデラニー条項Delaney Clauseを素材として 徳田博人 名古屋大学法政論集(137)1991-07))。
農林水産関係用語集の解説「デミニミス:最小限の政策としてWTO農業協定上削減対象とならない国内助成のこと。具体的には、品目を特定した国内支持であればその品目の生産額、品目を特定していない国内支持であれば全ての農業生産額の5%以下の国内助成が対象。開発途上国の場合は10%まで認められている。我が国では、野菜、鶏卵の価格安定対策等が該当。」

*8 リスク評価方法:(独)製品評価技術基盤機構の次のURLをご覧ください。
http://www.safe.nite.go.jp/shiryo/RA/about_RA3.html