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vol14.科学・技術リテラシー

佐々義子:2011年2月

食のリスクコミュニケーション円卓会議も、私の属するNPO法人くらしとバイオプラザ21も、科学に軸足をおいた考え方を普通の市民の間で分かち合える社会を目指して活動しています(と私は認識しております)。科学に軸足をおいた考え方とは、科学・技術リテラシーということができるでしょう。食のリスクについて科学的な根拠に基づいて考えることも、科学・技術リテラシーの一部です。

 それでは、多くの人に科学・技術リテラシーが浸透するためにはどんなことをすればいいのでしょうか。円卓では、専門家を招いてお話を聴いたり、偏った報道に対して意見を述べて適切な情報発信を促す活動をしたりしています。くらしとバイオでは、余り関心を持っていない方も含めた対話の場づくりの実践や、サイエンスコミュニケーションの手法や評価の研究に力を入れています。

 一般市民というか、「普通の人」が科学・技術リテラシーを高めようとするなら、それはサイエンスコミュニケーションの中で初めて可能になると思います。学校教育を終えた人にとっては、リテラシーを高めるための学習の機会も豊富にはありませんし、適切な情報にうまくアクセスできないこともあります。だから、サイエンスコミュニケーションの実践がどうしても重要なのです。

 また、唐木英明先生がいつも言われるように、人間は未知のものを怖れる反応が深く身についているために、科学・技術リテラシーが簡単に身に付かず、繰り返し学ばなければなりません。そして、繰り返し学べるようにするには、資金を含む環境作りも欠かせません。しかし、サイエンスコミュニケーションを行っている大学、学会、行政、NPOなどの多くは、資金不足、人手不足に悩んでいます。担当者が変わっても、政権が変わっても、変わらずに継続してサイエンスコミュニケーションを行い、人々のリテラシーが少しずつあがるような仕組みはできないものでしょうか。

 現在、科学技術振興機構(JST)は2008年から、函館、浜松など全国15カ所で「地域ネットワーク」という事業(3年継続)を支援しています。リタイヤされた技術者や教員の力を結集し、Webを使って若い人たちのネットワークをつくり、科学フェスティバルをしたり、人材育成をしたりと、いろいろな試みが行われています。そのキーワードは「地域コミュニティ」です。地元との関係を強めるために、大学などの研究機関や教育機関だけでなく、都道府県、市町村、教育委員会など一緒に手を挙げることが応募の条件になっています。街おこしとつながり、サイエンスとは余りご縁のない市役所の福祉部門、青年会議所、商店会の方たちとWIN-WINの関係を作りながら、サイエンスコミュニケーションが継続できるような仕掛けが模索されています。3年間の支援後のネットワークの姿が、最も重要な評価対象となっていることも、この事業の特徴です。円卓会議のメンバーにも、地域ネット事業として採択されている、東京国際科学フェスティバル(TISF)に参画されている方もおられます。地域コミュニティをキーワードにしたら、文系・理系の垣根も自然消滅するかもしれません。根気よく、応援し、期待したいものです。

 一方、理系人間やサイエンスに関心を持つ人々がどんなに頑張っても、日本中の人に、バイオテクノロジーやそのリスクの考え方が知れ渡る状況はあり得ないでしょう。私が、裁判員制度や、年金の仕組みなどについて質問されたら、口ごもってしまうのと同じです。自分に関わりのある分野については知っているような気がしていても、“自立した生活者”になるには、知らなくてはならないことがたくさんあるのです。そのような現実を見据えたうえで、市民に定着させたい科学・技術リテラシーのコンテンツ、科学・技術リテラシー浸透の深さや広さも、検討していかなくてはならないでしょう。これは、サイエンスコミュニケーションの継続的実践と並行して考えるべき、次の課題だと思っています。