一つ前へ 一覧に戻る つ後ろへ

vol10.生物多様性から考える食べ物多様性

中村 友宇子:2010年9月

生物多様性という言葉が最近よく聞かれるようになりました。10月に名古屋で開催されるCOP10(生物多様性条約第10回締約国会議)の影響があるのでしょうか。

生物多様性と聞いてほとんどの人が思い描くのは、ある場所にどれだけの生物種がいるかということだと思います。
だけど、それだけではありません。生物多様性には、このほかに二つのレベルの多様性があります。
遺伝子の多様性と生態系の多様性です。

遺伝子の多様性とは、種内にどれだけ多様な個体がいるかということです。
同じ種であっても個体間で遺伝子に差があり、その差によってそれぞれの個体は個性を持つことになります。全ての個体が同一の遺伝子を持っているとしたら、災害などが起こったときに全滅してしまう恐れがあります。

生態系の多様性とは、森林や里山、海や河原といった生態系がどれだけ多様に存在しているかということです。
生態系が多様であるということは、それだけ様々な生物種が存在できることを意味します。森林に生育する植物の中には、里山では生育できないものもあるのです。

さて、今回は、生物多様性から着想を得て、私たちにとってより身近であると思われる食べ物多様性について考えてみようと思います。

ここでいう食べ物の多様性とは、それを高めることで人間の健康の保持にプラスの効果があるものだとします。
健康のためにはひとつの食べ物だけを熱心に食べるのではなく、「様々な食べ物をバランスよく食べる」ことが大切だといいます。ご飯、野菜、肉や魚やたまご、乳製品、果物をそれぞれの人にとって丁度良いバランスで摂取するということは、厚生労働省の食事バランスガイドでも推奨されています(その他にも運動が必要ですが)。
食べ物の種類に焦点を当てるということで、これは生物多様性における「生物種」多様性ごとき位置づけにあるものなので、「食べ物種」多様性と呼ぼうと思います。

こうした多様性とレベルの異なる多様性の提案として、産地の多様性というものはいかがでしょうか。
スーパーに並んでいるトマトを見ると、大抵は産地がバラバラです。同じ種類の野菜であっても、産地まで全て一緒ということはあまりありません。
よほどのこだわりがある人でない限り、普通は色々な土地で採れた野菜や果物を食べています。肉や魚についても同じです。
色々な土地のものを食べるということは、食べ物による健康影響のリスクの分散に繋がることがあります。例えば、地域Aには、ある有害物質Xがその他の地域より多く含まれているようなことがあるとします。この場合、地域Aで育てられたものしか食べないことは、物質Xによる健康影響のリスクを大きくしてしまいます。それに対して、地域Aのものも食べるけど地域Bのも地域Cのも食べるという場合は、食べ物から摂取する物質Xの総量は少なくなり、リスクは抑えられます。

さらに、生物多様性に倣うと、もうひとつレベルの異なる多様性が必要です。メニューの多様性というのはいかがでしょうか。
ホウレンソウひとつとっても、茹でておひたしにする場合もあれば、炒めることもあります。フードプロセッサーにかけてポタージュスープにすることもあるかもしれません。
いずれにせよ、食べ物は調理の仕方によって摂取できる栄養成分が異なってくることがあります。水溶性ビタミンは水に溶出しやすく熱に弱いといいます。では、生で食べるのが一番かと言えばそういうわけでもなく、生で食べるのが向いていない食べ物もありますし、食べる側の体調によっては消化しにくかったりして相性がよくないこともあります。
また、「この食べ方だと食べられないけど、こうすれば食べられる」ということはよくあることでしょう。状況に応じて調理法を変えることができれば、摂取できる食べ物の種類は多くなり、一つ目に挙げた食べ物種の多様性にも繋がるかもしれません。

今回は、食べ物多様性として「食べ物種」多様性、「産地」多様性、「メニュー」多様性を挙げました。
人間活動の発展とともに生物多様性は低下してきてしまいましたが、この三つの食べ物多様性は逆に高まってきています。現在は様々な国からたくさんの食べ物が輸入されるようになりましたし、ここ数年のことでも、どんどん新しい品種の野菜が登場してきています。
食べ物多様性を高めることは比較的実感しやすく、また、実行されやすいと思います。
それでは、生物多様性を維持するとはどういうことなのでしょうか? COP10をいい機会に、改めて考えてみたいところです。